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梅酒



 

 梅の実のゆらりたゆたう眠たさよ         驢ノ751





 駄句である。






梅の実と氷砂糖が溶け合うように、
私の胸の内の、固いものが溶けていくのがわかる。

溶けて、いいのか?
と、不安になる。





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固いもの、それは石のようなもの、ではなく
例えばピアノ線のようなもの。
固いではなく硬い、だろうか。

その強靭な糸が、溶けるように、ほどけてゆく。
そんな感じ。

人は、そんな様々な、糸のようなものに繋がれて生きている。
それぞれに強さ弱さがあり、張り詰めたもの、弛んだもの、色々ある。
切れるもの、切れないもの、切れそうで切れないもの、色々ある。

その糸は、生きていて、まるで血が通っているような、
いや、電流のようなものが流れているようなもので、
ピリピリだったり、チクチクだったり、気づかないほどだったり、
様々な刺激を与え合いながら繋がっている。

電気毛布のように温かく柔らかい感触の場合もあるが、
低周波治療器のように、痛いけれど気持ちいい関係や
あるいは、不愉快なだけの場合もある。

みんな、この電流の刺激を、相互に加減しながら関係している。




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あれ、何が書きたかったんだろう。

ここ数日、こういう時が多い。
色々な思いつきが、グルグル回って、結局、まとまらなくて、
グルグル回りが、急に止まって、遠心力で、この色々な思いつきが
四方八方に飛び散って、雲散霧消してしまう。
だから、書き留めてみよう、と始めたのだけれど、
やっぱり、散らかってしまった、やれやれ。

もう、寝よう。




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一夜明けたが、最近、寝覚めが良くない。

少し前までは、いつ起こされても、しっかり目覚めていたのに、
まだまだ寝ていても良い時間に目覚めて、その後、眠れない。
今までは、いつ起きても、すぐに寝直せたのに。

まあ、いい。
今日は、リハビリの日だから。
私の信頼する理学療法士が、捻れた身体を、あるべき形に戻してくれる。
身体が整えば、きっと、縺れた心もほどけるだろう。

柔らかい下着の上に、少し薄手のTシャツに着替えて出かける。
彼の手の微細な動きを全て感じられるように。
私の身体の捩れが、外からもよく見えるように。
多分、そんな必要はないのだろう。
過剰な準備かもしれない、と分かっているけれど、念には念を入れる。
いつもより、少し緊張しているのかもしれない。
リハビリ室の前で、名前を呼ばれた時、なぜか、妙に驚いた。




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「この1週間、どうでしたか。お葬式や、介護とか、
先週よりも疲れは、取れましたか。」

と、彼は、ベッドの端に腰掛けた私の背後から、声をかける。
背後から柔らかく肩を持ちながら、「右向いて下さい」「左向いて下さい」
と、首の回り具合を確認している。
「では、上向いて…」と言われて、頭を反らすと、彼の眼と出会う。
その少しいたずらっぽい眼を見れば、マスクに隠れて口元は見えないけれど、
その唇が微笑んでいることがわかる。
そんな眼をしている。

もう、なんだか、良くわからないくらい身体が捻れた感じで、
真っ直ぐ立ってない気がするんです。ゆらゆらするんです。
腰も膝も、正しくない。腹筋にも背筋にも力が入らない。

と、泣き言を言う。

「原因はわかりますか。
どこか、無理をしましたか。」

肩甲骨辺りを、押すでもなく、撫でるでもなく、静かに掌をあてて、
筋肉か骨か、そんなものが話し始めるのを待つように、
彼は尋ねる。

義母の不在に慣れないんだと思います。
30年間、ずうっと緊張していた身体が、急に緊張しなくてもいいっていう
状態になって、それに戸惑っているのかな、って感じです。
今まで、私は年中無休っていうか、家から離れいても、眠っていても、
電源は切らないままの、パソコンの「スリープ」みたいな状態でいたのに、
急に、その電源が切れてしまったみたい。

「Enterキーを押すと、直ぐに立ち上がる状態ですね。
なんとなく、わかります。では、横になって。」

横になった私は、左腕を彼の膝に預けた形になり、肩をほぐされることになる。

そうなんです。
今まで、そういうスリープモードだったのに、
お葬式が終わって、完全にシャットダウンしたら、なんか変な感じで、
朝起きても、電源が上手く入らないんです。

などと話しながら、自分で自分の言葉に頷く。
そうそう、私が言いたかったことは、これなんだ。と気づく。
これは、カウンセリングと同じ状況だ。
いつの間に、彼はこんなに腕を上げたのか。
それとも、私が、思った以上にリラックスしてしまったのだろうか。

「新しい電源を探さないと、いけませんね。」

えっ

「新しい、今までとは別の電源、コンセント、です。」

あっ、そうなんだ。
えっ、そういうことなのか。
今まで、30年間。
私は、義母の為のコンセントを主電源にしていたけれど、
もう、そのコンセントは使えないんだ、そうか、それを忘れて、気付かず、
今まで通りにつないで、動かそう、としていた、そういうこと?

「たぶん…」

ねえ、先生。
今、先生は凄いこと言ったよ。
これは、セラピーみたいな、それも凄くレベルの高いセラピー。
いつの間に、こんな技が出来るようになったんですか。

「いや、何となく。わかった感じがしたんで。
最近ちょっと、身体と気持ちが繋がってる、というのが分かるようになったかな。
今日みたいな、雨が降りそうで降らない日は、頭が痛いんです。
今まで、そんなことなかったのに。
30歳に近付くと、身体が変わるのかなあ。ねえ、どう思います?」

なんて、いつもの調子に戻る。
それからは、天気の話や筋肉の話になってしまった。

話しながらも、私の身体は、彼の手や腕によってほぐされ、整えられていく。
肋骨やら、腰の上のあたりの筋肉の膜を剥がすように引っ張られるうちに、
徐々に、私の身体は自身の中心を捕まえ、骨盤あたりに自然な力が入ってくる。
反って浮いていた背中や腰が、ベッドに張り付き、肩が広がるのがわかる。


「さあ、立ちましょう」

と、靴下のままで床に降りると、両足の親指に体重が乗っている。
足首、膝、腰、腹、肩、頭、が真っ直ぐ、ダルマ落としの最初の形のように、
真っ直ぐに積まれている実感がある。

「歩いて下さい。」

おお、ちゃんと、足が床を蹴れます。
ここへ来るまで、それができなかったんですよ。

「リハビリ室に入ってきた時、歩けてなかったですもんね。」

これなら、大丈夫です。
新しい電源を探しに行けそうです。

「急がないほうが、いいです。時間がかかります。たぶん。」

そうか、そうですか。
そうですよね。

「はい。そんな気がします。」




ちょっと、村上春樹っぽい、展開。





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今年は、義母のことで頭がいっぱいで、
もう梅酒は作らないでおこう、と青梅を買わなかった。

梅が店先から、消え始めた頃、急に気が変わって、
追熟を始めてしまった売れ残りの梅を買って、漬け込んだ。

柔らかくなりかけた梅で梅酒を作るのは初めてだが、
いつもは控えめににする氷砂糖を、多めにして仕込んだ。

上手くいった気がする。

写真は、上から順に時間を遡っている。
一番上の写真が、最近の様子。

赤い色素が、ゆらゆらと溶け出して陽炎のようだ。


まだ、義母の気配が抜けない家の中で、私はもう死んでしまったコンセントに
意識を繋いで幻を見ているのか。
繋がっていないはずのコンセントから、微かな電流が流れて、
ぼんやりと心が起動するのだ。
そしてシャットダウンしようとしても出来なくて、心がバグっている。



眠い、眠い、と、たゆたう私の心の如く、梅の実が揺れている。



















Commented by saheizi-inokori at 2019-07-11 06:01
再生、かな。
Commented by unburro at 2019-07-11 09:51
> saheizi様

再生、なるほど…

自分でも、よく分からないのです。
私の中の、いつも変わらない頑固な部分と、
周囲に合わせて色を変えるカメレオン的な部分との
バランスが崩れているのだと思います。

再生、なのか、転生、なのか、
リサイクル、か、リメイク、か、
どこへ向かっていけばいいのか、五里霧中です。

今、wikiに尋ねてみたら、経済用語の「再生」に目が止まりました。
自己破産からの個人再生とか、倒産からの企業再生とか、に近い
方法論かもしれませんね…
Commented by ryuboku2 at 2019-07-11 10:58
そちらも“奇跡の梅仕事”が成り立ちましたね!

新たな電源探し。
良い事をおっしゃいますねー。

どんな電源が入るのか、楽しみに拝見しております。
Commented by unburro at 2019-07-11 13:11
> ryubokuさま

梅酒は、固い青梅で作らなければいけない。
と、思い込んでいたのですが、調べてみると、
「追熟の梅で作ると、まろやかな梅酒が出来る」という
情報が多数あり、チャレンジしました。

梅酒は、飲むのはもちろんですが、
私は、漬けた実を煮込み料理に使うことが多くて、
その為に梅酒を作る、と言っても過言ではありません。

青魚の煮物はもちろんですが、
豚の角煮などに、使うと美味しいですよ!
Commented by こんの at 2019-07-11 17:08 x
波と隔膜がありまして、それが微妙に変化する
こころとからだは微妙に繋がっているのですね
っふふ 微妙の連続(笑)
Commented by unburro at 2019-07-11 18:21
>こんのさん!

心と身体は、切り離せないものですね。

松介のような心理士は、心から身体を診るけれど
理学療法士は、身体から心を観るような感じかもしれません。

心理士は「言葉」を道具にし、眼で観察し、心を探りますが、
理学療法士は「手」を道具にして、言葉を引き出すように感じました。
クライアントに触れてはいけない心理士としては、
「それは反則だなぁ」と松介に言われそうです(笑)
Commented at 2019-07-12 16:54 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2019-07-12 17:19 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by unburro at 2019-07-12 17:58
>鍵コメkさま

心の揺れ。
身体のふらつき。
たぶん繋がっているのでしょうね。
プロの眼、は流石です。

心の不安定を、治すのは、時間がかかりますが、
身体の安定の為に、手すりや杖を使うことは、比較的、簡単に出来る対処法だと、膝の術後のリハビリで学びました。
道具の助けを借りながら、ゆっくりと筋肉を鍛えたり、心配事に立ち向かっていけば良いのだ、と思います。

私の周りには、足腰が弱っているのに、杖を嫌がる方や、
老眼で見えにくいのに、眼鏡を掛けたくない、という方が多くて
ナゼ?と、思います。
先ず、安全を確保してから、鍛えたり、無理をしたり、して欲しいです(笑)

もう、10年以上前になりますが、
歩く時に、義母の足が少し上がりにくい事に気づいた時、
家中の、スリッパを廃止しました。
トイレのスリッパも撤去して、滑りやすいタイルの床を、
取り外して洗えるマットを敷きつめる様に変えました。

くれぐれも、ご無理なさいませんように。
(お玄関に手すり、ご検討下さい…)
Commented by unburro at 2019-07-12 18:07
>鍵コメmさま

本当にそんな感じです。

家族に空いた穴は、家族みんなで埋めれば良いけど、
自分のコンセントは、自分で探さないといけない。

ナルホド、名言(?)頂きました!
ありがとう。

「嫁」の枠は外れたけれど、残るのは「母」の縛り、かな?
これは、死ぬまで、なんだろうか…まあ、お互い様なんだけれど…
「妻」の枠は、まだ気に入っているので、収まっておこうと思います(笑)
Commented by hanamomo60 at 2019-07-15 10:22
>たゆたう私の心の如く、梅の実が揺れている。
大切な家族をお見送りしたあと、なんて素敵なそして心のままの表現なのでしょうと思いました。
しばらく梅の実のように自由な時間を過ごせますように。
Commented by unburro at 2019-07-15 11:01
>hanamomo さま

あっという間に半月が過ぎ、
ここ2、3日、やっと義母の不在に慣れてきたような気がします。
しかし、今でも、トイレに入っている時や、お風呂の中などで、
義母に呼ばれているような、空耳?がする事があります。
それも、少しずつ消えていくのだと思います。

たゆたう、って面白い言葉だなぁ、なんて思いながら、
度数の高いアルコールの中でゆらゆら浮いている梅、
静かに溶けながら沈んでいる氷砂糖…そのガラス瓶、などを、
ぼんやりと眺めているのは、とても良い気分です。
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by unburro | 2019-07-11 02:10 | 刀自さま | Comments(12)