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藤・其の一





 肩抱けば髪に昼間の藤薫る       
驢ノ739


 

 
 駄句である。  







藤の花房、ゆらり。
蝶々も一緒に、ゆらり。

藤は、大きな木や、人の作った棚やら、何か支えがなければ
蔓を伸ばし、葉を広げ、花を咲かすことも出来ないのに、
支えとなっている木や棚のことなど知らぬふり。
豪奢な衣装や髪飾りで、高い下駄を履いて練り歩く太夫の如く
眼下のすべてを見下すように、ゆらりゆらりと咲き誇っている。

薔薇でもなく、牡丹でもなく、藤の花は、艶やかなのに、どこか儚い。

贅沢なものは、どこか儚い。

金糸銀糸の綴織の丸帯を締める苦しさも、
大仰な髷に挿した珊瑚や鼈甲の簪の重さも、
この花魁道中を見るものには、気付かれてはならない。

重いものほどに軽そうに、軽いものほどに重そうに、
厳しい修行を乗り越えた者の技が、人を惑わすのだ。

藤の花房も花魁も、この世の美しいものは、
目眩しの幻の中、ゆらり揺れている。


こんな白昼夢は、どうだろう。


紫の滴りが、その下を歩く私たちを染めてゆく。
重く垂れ下がり視界を遮る花房を、掻き分けるように進むと、
どこまでも続くかと思われた藤棚が、突然途切れ、その向こうに、
彫刻のように漆喰を塗り重ね、極彩色に飾り立てた楼閣が現れた。

導かれるように中に入ると、螺旋階段が龍のように壁を巡り
最上階のひとつの部屋に続いている。

派手な外観とは裏腹に、その部屋は煤けた灰色の壁に囲まれ、
中央に、中国風の彫り物の施された紫檀の柱を四隅に持つ寝台が
薄紫の天蓋、濃紫の絹の上掛けで覆われてぼんやり光る。
枕元の小卓には、切子の酒瓶に赤紫の葡萄酒が重く満たされてある。

ただ一つの窓からは、時間の判らない空が見える。

私たちは、他にすることなど思いつかずに、
寝台に倒れ込む。

いつの間にか、
君の髪も、瞳も、唇も、紫色になって、肌の白さが白磁のように
輝いて見える。

藤の薫りが、ますます濃く部屋を充たしてゆく。


大きな藤棚の下を、ふらりふらりと歩いた。


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10日ほど前、ここまで書いた。

未完のまま、また一週間が過ぎた。

その理由は、次回「藤 ・其の二」にて。












Commented at 2019-05-24 16:45
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by unburro at 2019-05-24 18:10
>鍵コメさま

いつも、過分なお褒めの言葉を頂き
ありがとうございます。

こちらこそ、洗練された暮らしの中で、尚ご自身を磨き続ける貴女に
いつも感服しているのです。
淑女にあまり褒められると、驢馬がサラブレッドになったかと、
勘違いをしてしまいそうです(笑)

命とは強くて弱いものだ、と分かったつもりでいたのに
眼前に揺れる炎を見ると、その「あやうさ」に慄く心地です。
日毎に腕の中で軽くなってゆく老女を、抱きながら、
幻想の官能に逃げよう、と試みましたが、途中で失敗しました(笑)

次の展開は、全く読めない…今日この頃ですが、
時折、このブログに中で、「王様の耳は驢馬の耳…」と呟くことで、
自分のアイデンティティのようなものを確認しているのだと思います。

どうぞ、お気楽にお付き合い願います。
Commented by こんの at 2019-05-24 18:49 x
 肩抱けば髪に昼間の藤薫る       驢ノ739

無関係なことを書きます
今日は予定通りにMRI とCT検査を受けました
「悪性ではないので、このまま様子をみましょう」
ということでした
Commented by unburro at 2019-05-25 01:51
> こんのさん!

「悪性ではない」良かったですね(^。^)/

様子を見ながら…5年、10年、20年…
いつまでも、お元気でお過ごし下さい。
こんのさんを愛する方々のために!
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by unburro | 2019-05-24 15:37 | Comments(4)