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鬼柚子





 鬼柚子の鬼の涙を絞りけり         驢ノ714

 
 滴りは声を殺して鬼の柚子         驢ノ715


 鬼と呼び獅子と云われて柚子香る       驢ノ716

 

 
 駄句である。






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なんとも個性的な果物が、我が家にやって来た。

この鬼柚子に比べたら、
洋梨のことを醜女だとか不細工だなどと言って、
ごめんなさい、と平謝り、平身低頭、土下座では
済まないほどである。

しかし、鬼とはすさまじい名である。

美しいとか醜いとかを問う状況ではなく、ただ、怖いのだ。
見ただけで、一歩、いや二歩、三歩、後ずさる。
ちょっと触れるのにも躊躇する。
噛みつかれそうな気がする。

別名、獅子柚子ともいうらしい。

鬼も獅子も、人知を超えた存在であり、圧倒的な強さの象徴である。
獅子は、この柚子のタテガミのような造形からの連想もあるかもしれない。
鬼は、やっぱり怖いもの、尋常でない形という意味だろうか。

最近、鬼は「鬼強い」とか 「鬼凄い」とか、
超を上回る意味の接頭語になっているようである。
そういえば、神というのも日常会話でよく聞くようになった気がする。
「神ってる」とかが流行る以前から、その道の先駆者、最強者などを
ナントカの神、とか呼ぶのを聞いたことがある。

神も鬼も、異界から人間界に降りてきているようである。




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この3個、それぞれ赤ちゃんの頭ほどある。
いや、テレビなどで見かける顔の小さい女優さんなら、
大人の頭くらいの大きさ、と言っても良い。

「ジャムにすると美味しいですよ。」

と、頂いたのだ。

え、食べるの。
これ、切るの。
なんかコワイんですけど。

「中の白いフワフワが、煮るとトロッとして美味しいんです。
だから、皮だけじゃなく、白いとこも全部入れて、
果肉も一緒に煮て下さい。」

と、言われたからには、料るしかない。

ざくり、と包丁を入れ、割り、開く。
言われた通り、黄色くみずみずしい表皮の下に
分厚い白い綿の層があり、その綿につつまれて
赤ん坊の握りこぶしほどの果肉がある。

この果汁を含んだ果実は、小さくてとても硬い。

未だ少し青い実である所為かもしれないが、
この果肉の硬さに、私は少し胸が痛くなった。
荒々しい外皮、ふわふわ柔らかい内側、そして、
滴りを秘めた硬い果肉。

こんな風に、硬い心をそっと抱いて、尖った顔をして
強いんだか、弱いんだか、自分でも自分のことがわからない。
怖がられるのは嫌だけど、舐められたくないけど、独りは嫌なんだ。
周りのすべてが、怖くて、不安で、いたたまれない。

そんな震える心が、ここにある。




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実と皮を分けて、白いワタごと皮を刻む。清冽な香りがほとばしる。
と言っても、普通の小さな柚子に比べると、柔らかい香りがする。

鬼とはいっても、なんだか普通の柚子よりやさしい。

皮の苦味を取るために、何度か茹でこぼしする、とも
聞いたけれど、一度茹でて、さっと水に晒して食べてみたら、
丁度良い苦味だったので、これ以上茹でるのはやめて、
目分量の砂糖を入れて、煮込みにかかる。

初めに重さを計って、その何パーセントかの砂糖を入れるべきなのだが、
ザクザク切ってすぐに茹でたので、生の時の重さが、もはやわからない。
結局、適当に味見をしながら煮詰める事にする。
この時、薄皮を剥いた果肉もほぐしながら加える。

家にある一番大きな鍋に一杯になった柚子が、どれほど煮込めば
程よいマーマレードになるのか、見当もつかないままに、
焦げないように、木べらで混ぜる。
ジャム作りは、手早く作る方が良い。
弱火でコトコトではなく、中火くらいでグツグツの方が、
艶のある美味しいジャムができる気がする。

が、しかし、元々、水分が少ない果実の上、目分量の砂糖が
どうも少なかったようで、なかなかトロリと煮えない。
ちゃんと種もまとめてお茶パックに入れて、一緒に煮込んでいる
のだが、それだけではペクチンも足りないようである。

慌ててネットで調べてみたりすると、蜂蜜を入れるとか、
林檎を入れるとか、面白いことが書いてある。

確かに大鍋いっぱいのマーマレードというのも芸がないので、
ざっと3等分して、

「あっさり鬼柚子マーマレード」
「林檎入り鬼柚子ジャム」
「生姜と蜂蜜入り鬼柚子茶の素」

を作る事にした。





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林檎のシールは、林檎入り。
てるてる坊主のシールが、生姜入りである。



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艶には欠けるけれど、やさしい味の柚子マーマレードができた。
クリームチーズと一緒に食べると、
秋なのに、春のような味がする。

白いワタの部分が軽い歯ざわりで、マーマレードというよりジャムに近い。
そういえば、この鬼柚子を持って来てくれた人も、
「ジャムにして下さい」と言っていたのだ。
マーマレードの言い間違いかな、と勝手に思っていたけれど、
ジャムの方が正しかった。

なんだか意味もなく上から目線でいたようで、恥ずかしい。




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お尻の方も、鬼迫力である。


















Commented by zoushoin at 2018-11-22 20:32
こんにちは。
すごい迫力ですね。
確かに「鬼」のご面相をしています。
見るほどに読むほどに鬼気迫ります

>こんな風に、硬い心をそっと抱いて、尖った顔をして
強いんだか、弱いんだか、自分でも自分のことがわからない。
怖がられるのは嫌だけど、舐められたくないけど、独りは嫌なんだ。
周りのすべてが、怖くて、不安で、いたたまれない。
そんな震える心が、ここにある。

この一文に胸をえぐられ、震えました。
けなげな鬼柚子が可憐にさえ見ます。
鬼柚子も、うれし涙を流したに違いありません。

これだけ描きつくされた鬼柚子が、見事にジャムになったとは、冥利に尽きますね。
堪能いたしました。
ありがとうございました。

 煮ても焼いても食えぬ鬼嫁より
Commented by unburro at 2018-11-22 22:53
> zoushoinさま

鬼柚子って、観賞用なのか、と思っていたので
食べる?ってだけでビックリでした。

しかし、手にとって眺めると、見れば見るほど愛しくて
語ってしまいましたね。

美しい、きれい、ってなんだろう。
と、つくづく思いました。

鬼嫁の胸にもやさしい涙が隠れているハズ、ですね!
Commented by urontei at 2018-11-22 23:10
>秋なのに、春のような味がする。

この一文だけで、一杯やれそうな気がします (笑)
Commented by unburro at 2018-11-23 09:05
> uronteiさま

冷やした白ワインなどお薦めですね。

あ、あまりドライじゃないシェリーもいいな。

コーヒーに、ラム酒をひと垂らし、も、どうでしょう。
これは、秋の味になるかも!
Commented by saheizi-inokori at 2018-11-23 09:17
生の味は?
刻んでいる時の香りは柔らかいって?
赤ちゃんの頭、たしかに中はふわふわだ。
興味が尽きない鬼です。
Commented by unburro at 2018-11-23 09:41
> saheizi-inokori様

生の味?
薄皮をむいて、ちょっと食べて見たのですが、
それほど酸っぱくはなく、ぼんやりした味でしたね。
ザボンに似ています。
美味しくないザボン、って感じです。

丸々と、福々しいザボンに比べて、
まさに、鬼っ子、なのだな、と思います。
だから、やっぱり、可哀想に見えてしまいます。
ヒトの勝手な思い込みなのは、わかっているのですが…

鬼の子の頭を、ザックリと割る…
そんな悪い夢のイメージについて、も書きたくなりましたが、
怖いのでやめました。
Commented by こんの at 2018-11-23 11:18 x
  
  滴りは声を殺して鬼の柚子   驢ノ715

3句とも佳句! 中でも715が胸深く響きます
Commented by こんの at 2018-11-23 11:24 x
本文を拝読し、なぜか「ひろすけ」の『泣いた赤鬼』を思い出しました

Commented by unburro at 2018-11-23 12:26
>こんのさん!

ありがとうございます。

驢ノ715は、昨日からだいぶ書き直しているのですが
今も迷走中です。

『泣いた赤鬼』は、ほんとうにすごい話です。
何度読み返しても、思うことがあります。
Commented by mother-of-pearl at 2018-11-23 22:13
鬼と仏と神が人と共に暮らす故郷を満喫して帰ったばかりです。
鬼、、、何故か怖いイメージが無いまま育ちました。
(もしかして自分が鬼?)

大量の瓶詰めを完成なさり、これからの朝ご飯が楽しみですね!!
美しい緑色と不思議な形、特に後ろ姿、に魅せられました。
Commented by unburro at 2018-11-24 00:48
> mother-of-pearlさま

たしかに、鬼も仏も神も、元来同じもの。
昔々のある時、ヒトの都合で善い神と悪い神を分類して
悪い神のことを鬼、と呼んだのでしょうね、たぶん。

鬼神という言葉もあるくらいですから。
それから、鬼子母神、とか…

そして、この鬼柚子の後ろ!凄いですよね。
どんな過程でこんな風になるのか、花から実になるまで
ハイスピードカメラとかで、見てみたいです。
Commented by haru_rara at 2018-11-24 16:46
凄いですね、これは圧倒的な迫力。特に最後の後姿が凄い。
でも中身は春のような味わいなのですね。
柚子茶にしても美味しそう。

「滴りは声を殺して鬼の柚子」

私もこの句に、ことに惹かれました。
Commented by unburro at 2018-11-25 01:13
> haru_raraさま

こんばんは。

まったく圧倒的!凄い迫力なのです。
でも、中身はやさしい。

そして、生姜を入れても、林檎を入れても、蜂蜜だって、
受け入れてしまう、でも、「ワタシは柚子ですよ〜」という
アイデンティティ?は、しっかりあるのです。

何というか、勉強になります(笑)

「殺す」とか「鬼」とか、どうも物騒で
俳句っぽくないのですが…惹かれる、とか言っていただくと、
にやり、としてしまいますが…
つくづく難しいです。
いやはや…
Commented by hanamomo60 at 2018-11-26 22:21
 鬼柚子の鬼の涙を絞りけり  
この柑橘にぴったりの句ですね~。
文旦が好きで毎年お取り寄せしている友達が近所に居ます。
大きいので毎年二つ持ってきてくれます。
グレープフルーツより果汁たっぷりではないあの乾燥気味の果肉が友達は好きなんだそうです。
その友達から鬼柚子は文旦の親戚だよと聞いた事がありました。
白い綿のところがさほど苦くないのはそのあたりなのでしょうか?
普通の柚子や八朔は敵のように白いのをとらないと苦味が強くなります。
それにしても力強いお尻は迫力十分ですね。
パンにのせた美味しそうなジャムの色のやさしそうなこと!
Commented by unburro at 2018-11-26 23:12
>hanamomo さま

ありがとうございます。
なるほど、文旦の仲間なのですね!
で、今、改めて調べたら、なんと、文旦とザボンは同じもの!
だそうです。知らなかった〜です。
そして、鬼柚子とは言っても、柚子の仲間ではない、
とのこと…難しい…

大きくて、ちょっとパサっ、としているのが「ザボン」で、
ひと回り小さいけれどジューシーな、土佐文旦などが
「文旦」なのだ、とテキトーに思っていました。
ジューシーな土佐文旦などは、パサパサした乾燥気味の文旦(ザボン)が品種改良されたもののようですね…

難しいですね〜
というわけで、鬼柚子はパサパサ系でなので、
果汁は少なく、雀の涙ならぬ鬼の涙のイメージが見えたのです。

白い綿の部分が、その少ない果汁を吸ってしまう感じで、
煮ても、あまり水分が出なくて、トロッとしないジャムになってしまいました。
でも、そこがあっさり美味しくて、タップリ食べてしまいます(^。^)
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by unburro | 2018-11-22 18:29 | Comments(15)