人気ブログランキング | 話題のタグを見る

初雪



初雪と牡蠣と帆立と北寄貝       
驢ノ281


駄句である。


北海道、厚岸から届いた海の幸、と雪。
大粒の浅蜊もある。

貝尽しである。



初雪_b0290638_01533864.jpg


牡蠣は殻付き、そのままで食べる。
レモンさえ邪魔になるような、清冽な旨みだ。

盃の酒を飲む様に、口から迎えにゆく。
ちゅっと啜ると、あっと咽喉まで滑りそうになるのを、
歯で止めて、そっと噛む。
ゴメンっという気持ちでぐっと歯を立てると、
北の海の冷たい香りが広がる。

牡蠣の身は、軟らかいのに密度がある。
噛む場所によって、味が違う、しかし、その場所を選ぶことは出来ない。
賭けなのだ。
歯を立てるのは、一回だ。
何度も噛んでは温くなるから、一度噛んだら、後は喉越しで味わう。

つるりするり、と数個食べる。
今日は、他の貝もあるので、これくらいで許してやろう、と
一息つく。
生牡蠣が中心の献立の時は、十個以上、二十個未満か。


初雪_b0290638_01400778.jpg


北寄貝は、今回初めて自分で捌いた。
寿司屋で食べるもの、と思っていたが説明書を見ながらやってみる。

固く閉じた貝殻をこじ開け、貝柱を探って切ると、
ふっ、と力を抜く様に、体が開く。
ヒモや腸のぬめりの中から、ころっと弾力のある身を探し当てる。
逃げるように滑るところを、指先でつかまえると、
きゅっと慄くように硬くなる。
なんとも言えず、官能的な感触である。

さっと湯に通すと、つんと尖った身の先が薄桃色に染まるのだ。
先にいく程、桃色は濃くなり、ああっ、と声が出る程の美しさである。

噛めば噛むほど、甘い。
飲み込みたくない、もっと味わっていたいのに、
いつの間にか咽喉を通って消えている。

醤油などいらない。
この自然の塩加減は、美しい人の汗のような、
と云うと狙い過ぎかもしれないが、
しかし、体液を思わす、馴染みやすい浸透圧であることは確かだ。


初雪_b0290638_01385082.jpg


さて、次は帆立貝である。

大きい。

私の掌より大きい貝殻を、こじ開ける、
これは何度かやったことがある。
北寄貝ほどの感動はない、
貝柱が中心に、へばり付いているだけの大雑把な構造だ。
この貝柱を取り囲むヒモの部分が、ウネウネと動く様に
筋肉の不随意さを思う。
反射と云うのは、厄介なものだ。
じっとして居よう、と頭では決心しているのに、
つい、反応してしまう、そんな器官のことを思う。

貝柱の上下を切り離し、周りのヒモやキモを取り除き、
円柱形の貝柱を取り出す。

大きい。

台所を覗きに来た梅子が、
「ちいさいプリンくらいあるねえ、すごい、すごい」
と、突ついている。
うわあ、ぷりっぷり、と、また突ついている。

こらっ、遊ばない!

と、叱る。

帆立は、刺身とバター醤油焼きにする。
この帆立は、煮ても焼いても、そのままででも、
帆立であることを主張している。
どうだ参ったか、と腰に手を当てて胸を張っている。

熱いバターの中で、焦げながらも、少しも小さくなる事がない。
どっしりと威張っている。
バターに加えたにんにくにも、屈することがなく、
ねじ伏せて家来にしてしまった。
醤油にも、負けない。
まるで、肩口ですれ違う人の香水程度にしか効かない。

中心まで火を通さない、レアな焼き方なのに、
歯を押し返すような弾力。
実力主義筋肉主義の体育会系だ。

少し、大き過ぎるのかもしれない。



初雪_b0290638_01471675.jpg


殿(しんがり)は、浅蜊の酒蒸し。
熱々の日本酒に溺れて、先を争って口を開けて大騒ぎだ。
フライパンの蓋を持ち上げて、白い湯気を吹き出している。

湯気の白さに、室温の低さが分かる。
換気扇の辺りから、冷たい外気が、入り込んでいるのだ。
蓋を開けると、眼鏡が曇る。

大鉢に移して食卓に運ぶと、皆の手が伸びる。
今日の寒さは、身にしみる。
暖房を強めにしていても、背後の隙間風が気になるのだ。
熱さがご馳走。
大粒の浅蜊が、にんにくとオリーブオイルの香りと共に
早く早く、と呼んでいる。


窓を鳴らす風に、雪が混じっている。
この冬、初めての雪だ。

















Commented by こんの at 2014-12-18 09:51 x
このエッセイ

最初から最後まで艶ぽい
いや、艶がちらばってる

独り身にはせつない
毒だ(笑)
Commented by こんの at 2014-12-18 09:54 x
このエッセイ

う~ん、やはり絶品だなぁ
Commented by saheizi-inokori at 2014-12-18 10:14
くそ~っ!
死ぬまでに一度でいいから(二度もやると罰が当たる)やってみたいなあ。
Commented by unburro at 2014-12-18 15:14
こんのさん!

大雪ですねえ。
慣れていらっしゃるとは思いますが、気を付けて下さい。

そう、今、独り身でいらっしゃるのですね。
ふふっ、独り寝は、冷たい…ですね。
雪女などに、ついていかない様に(笑)
Commented by unburro at 2014-12-18 15:24
saheizi様

ホホホ…美味しゅうございました。
saheiziさんも、貝は、お好きですか、お好きですよね。
ホホホ…北の海の貝は身が締まって、格別なお味でございました。

ああ、来年も食べたいなあ‼︎
と、北を向いて手を合わせ、願っております(笑)
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by unburro | 2014-12-18 02:09 | Comments(5)