人気ブログランキング | 話題のタグを見る

高千穂 夜



雨上がり湯上がりさてと月昇る
             驢ノ229



駄句である。  




実際には、月は無かった。
空は雲に覆われて、降りはしないものの、
辺りは雨の匂いが満ち満ちて、篝火の炎も湿っていた。





高千穂 夜_b0290638_21445632.jpg




天岩戸神社を後にして、乗ってきたのと同じバスに乗って
高千穂温泉に向かい、ざぶざぶと温泉に浸かり、
折り返すバスに、また飛び乗り、高千穂バスセンターに戻った。
地図を頼りに、しばらく歩き、予定通りに宿に入った。

身体は温泉で温まったのだけれど、湿った服はそのままなので、
なんだか、電子レンジの中で、中途半端に解凍された魚のような心地だ。
もう一度、宿の温泉に入ろうか、とも考えたが、
高千穂神社で、夜8時から始まる神楽を見に行きたかったので、
乾いた服に着替えて、早めの夕食をとる事にした。

地元の食材を使った膳は、柔らかい味付けで、鮎も高千穂牛も旨かった。
当然、高千穂酒造の芋焼酎も、ロックでやる。

一人の食事は、気楽で良い。

家族や仲間と囲む膳もよいが、一人酒、一人飯、も好きだ。
黙って食べる、黙って飲むことの心地よさ。
箸を置いて辺りを見回すと、窓の外がいつの間にか暮れている。
窓に映る自分を見る。
やあ、良い御身分だな、と声をかける気分。
ま、たまにはね、と応える気分。

一人でグラスに氷を入れる。
一人で、焼酎を注ぐ。
一人で飲む。

芋焼酎の香りが、口から鼻へ抜けてゆく、大杉の足元に湧く泉のような清冽さだ。
喉を通り過ぎ、腹におさまると、温かさが身体中に広がる。
いいな、いいね、と自問自答しながら飲む。

しかし、いい加減に切り上げて、神楽を見に行くのだ。
「御飯下さい。」 と声をかける。

黄色い粒々が、混ざった御飯が出てくる。
玉蜀黍ご飯、と献立表に書いてある。
甘くて、香ばしい。
乾燥させて、荒く砕いた玉蜀黍をいれた玉蜀黍ご飯は、
この辺りの郷土食らしい。
おにぎりにしても、美味いだろうな、と思いながら噛み締めて食べる。
漬物も美味しくて、たっぷりの御飯も全て食べ尽くした。





高千穂 夜_b0290638_22340524.jpg




動きたくないほどの満腹だが、そろそろ神楽の時間だ。

神社の神楽殿に向かう。

篝火の焚かれた参道を、しばらく歩く。

雲が多いので、空は低くて黒い。
元々少ない町の灯りも、ここまで届かないので、
篝火から少しでも離れると、闇が待っている。
こんなに暗い道を歩くのは久しぶりだ。



高千穂 夜_b0290638_22402818.jpg



神楽については、短いながらも本当に面白かった。
数年前に、出雲で見た神楽とは、まったく趣きが違う。

解説と、鳴り物を引き受けていた老人の、矍鑠としたユーモアにも感服した。

「手力雄(たぢからお)の舞」、「鈿女(うずめ)の舞」
「戸取(ととり)の舞」、「御神体(ごしんたい)の舞」の4番が舞われる。
夜神楽三十三番より代表的な4番を選んだ演目らしい。

神が人の様なのか、人が神の様なのか。
舞う人が付ける面は、神の顔なのだろうが、どう見ても人間の顔だ。
色々、思う事が多すぎて、まだ文章にまとめられない。

ネット上で掻き集めた知識や情報で、歴史や宗教を語るのは疲れるので、
いつか、別の機会に素直な心象として書く事にしようと思う。

ともかく、一時間ほどの舞台を堪能して、
また篝火の参道を降りて、宿に戻った。

そして、今度こそ温泉に入った。

手足を伸ばして、眼を閉じると昨夜からの旅程の慌ただしさが
夢であったのかと思うほど、遠くへ来た感慨を覚える。
長い旅をして、ひと時、この山里に足を留めた、という気がする。

旅の時間は、日常を超えて伸び縮みして、私を異次元に運んだのだ。
芋焼酎の手助けもあるかもしれない。

部屋に戻り、目覚ましをかける。
明日は、早朝から高千穂峡を歩く予定なのだ。

枕に頭をのせて、高千穂峡への地図を広げたが、
見る間も無く、眠りに落ちた。









Commented by こんの at 2014-09-15 07:34 x
エッセイを読み、(あぁ、佳い旅だったんだなぁ)
なんという清冽な、こころに響く文に嬉しくなる
Commented by unburro at 2014-09-15 09:30
こんのさん!

旅は、準備段階が一番楽しいのかもしれない、と
いつも思うのですが、今回は、帰ってからも楽しいです。
ブログや俳句にまとめる作業が加わったからだと思います。
Commented by saheizi-inokori at 2014-09-15 10:10
神々との交流ができたようですね。
Commented by unburro at 2014-09-15 13:48
saheizi様
高千穂で出会ったお年寄りが、皆、神様に見えました。
Commented by sheri-sheri at 2014-09-15 21:10
今晩は。ほんとに旅に出られて良かったですね。心地良さがこちらまで伝わります。私も帰宅して一ケ月半ちかくたったのに、まだ楽しく思い出し元気になります。あの旅を忘れないようにしようと思います。unさんもはるか離れたこの高千穂へお出かけになって大正解でしたね。この旅の余韻が、呑まれたお酒の様に身体とお心にずっと沁み渡って行かれることを祈ってます。
Commented by unburro at 2014-09-15 22:19
sheri様
旅は、精神の疲労回復の為の点滴のようなもの、ですね。
よく効きました。
九州の山々の水と空気は、酸素カプセルに入るより、
遙かに、身体を活性化させてくれました。
(酸素カプセルに、入った事はありませんが・・・)
Commented by wawa38 at 2014-09-16 15:19
暗い道・・・日本は明るい道が多いですからね。
闇があるから光がある、そんな言葉を思い出しました。

読んでいるこちらも古事記の一部を覗いたような気持ち。
Commented by unburro at 2014-09-16 16:52
wawa様

おっしゃるとおりです。
闇夜の深さが、神代の物語、舞いを際立たせてくれたようでした。

「御神体(ごしんたい)の舞」というのは、男女の神様がいちゃいちゃする、
という神楽なのですが、暗い夜にこれを見ると、
何か、わかるなあ、その気持ち・・・ という気になります(笑)

本当の夜神楽では、もっと「きわどい」演技が満載のようで、
「本日はお子様もいらっしゃるので、ソフトな感じでやりますのでご安心を。」  
と、いう事前の説明がありました。
次は、ハードな方を見たいなあ~と思いつつ帰ってきました(笑)
古事記って、まあ、そういう世界観ですからね。
Commented by sheri-sheri at 2014-09-16 23:04
はぁ、そうなんですね。・・・・
名前
URL
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。

by unburro | 2014-09-14 23:18 | Comments(9)