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鳥が啼く春は一枝に降り来たる          驢ノ131


駄句である。



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鳥の全てが、飛ぶわけではない。

最近、ペンギンの事をよく考えている。

私の知っているペンギンは、当然のことながら飛べないのだけれど、
最近、「鳥なのだから、飛べるでしょう。」 と結構な頻度で言われるらしく、
なかなか可哀そうな境遇にいる。

彼は、泳ぐのが得意である。
海が、彼の居場所である。
まあ、ペンギンとはそういうものである。

極地には、住む者のほとんどがペンギンである町もあるが、
都会では、様々な鳥が、獣や爬虫類や何やかやとが、共に暮らしている。
彼も、都会に住むペンギンである。

足が二本で、翼があり、くちばしがあるので、鳥の学校へ行った。
鳥の友人と過ごしてきたが、やはり、常に違和感は感じていたようだ。
皆が飛んで遊びに行く時は、集合時間に遅れないように早く家を出て、
頑張って歩いていく、などという努力は日常茶飯事であった、という。

その努力の甲斐もあり、また、得意の泳ぎを生かして水泳大会で活躍したりもして、
なんとか、鳥の学校を卒業した。
大学では、海で働く事を目指して、魚の研究をした。

就職は、海辺にある水産会社に決まった。
「海の事なら任せて下さい。魚に関しての専門知識には自信があります。
僕は鳥だけれど、泳ぐのも得意なんです」
と、アピールして採用が決定したという。
そのときの喜びようを、私は忘れる事ができない。

最初の配属は、倉庫であった。
「いろいろな部署で研修してから、海の仕事に出てもらいます。」
と言われたのだそうだ。

倉庫の課長は、彼を見て
「ああ、鳥が来てくれて良かった。その上、なんて背が高いんだ。
君の様な部下を探してきたんだよ。」
と最初は喜んでいたという。

彼に与えられた最初の仕事は、書類の配達であった。
各部署や、取引先に、様々な書類を届けるのが仕事である。
「色々な仕事場を知るには、この仕事は一番だよ」と言われた。
そして、
「鳥なんだから、さっと飛んでいけば簡単だよね。」とも言われた。

僕は飛べない鳥なんです、
と言うと会社を辞めさせられるかもしれない、と思い。
「行ってきます!」 と 出掛けて行ったのだという。
一生懸命歩いて、目的地をめざした。
走ったりもしたが、ペンギンの走りでは、たいした速さではなかっただろう。

当然のことながら、
「待っていた書類が届かない。」「遅い。」「届いた書類が汗まみれで汚れている。」
などというクレームが続き、彼は配達の仕事から外された。

「なんて事だ。君は鳥なのに飛べなかったのか。仕方がないなあ。
それでは、その背の高さをいかして、倉庫の仕事をしてもらおう。」

ということになった。

倉庫は、高い棚がずらりと並び、様々な水産加工品が並んでいる。
彼は、得意の魚に触れることが出来て、少しほっとした。

しかし、ほっとしている場合ではなかった。
倉庫の仕事とは、製品の箱を移動したり、運び出す仕事である。
ペンギンは、二足歩行で高いところに手が届きそうに見えるが、
翼は手ではないので、物を持つ事はできない。
頭より高いところに翼を上げるなんてこともできない。
押したり引いたりするくらいが関の山である。

彼は考えた。
「どうも、僕は誤解されているようだ。 ちゃんと説明しなくちゃ。」

そして、課長や社長に、

「僕は、鳥だけれどペンギンなので、飛ぶことは出来ません。
また、背が高いけれど、鳥だから手がありません。だから物を持つ事も出来ません。」

と、勇気を振るって話し始めた。
社長たちは、がっかりした、という顔をした。
でも、彼は水掻きのある大きな足で踏ん張りながら話し続けた。

「僕はペンギンだから、他のどの鳥よりも速く強く、泳ぐ事が出来ます。
海の事なら、カモメなどの海鳥よりずっと良く知っています。
アザラシやイルカよりも、詳しいくらいです。
僕を、海で働かせて下さい。」

と、一生懸命に説明したという。

「しかし、君。
君がそんな変わった鳥だなんて事は、履歴書にも書いてなかったじゃないか。
ウチの会社の規則では、倉庫の仕事や事務所の仕事を順番に覚えてからでないと
海の仕事に配属することは出来ないのだよ。」

と社長は応えた。

彼は、海の仕事に配属される為に、一生懸命に働いたという。
しかし、毎日毎日 「遅い。へたくそ。足手まといだ。」
と言われている内に、だんだん自分の事が嫌いになってきたという。

倉庫の仕事で疲れ果て、泳ぐことさえ嫌いになりそうだった。
ペンギンである事が、生きる価値のないという事だと勘違いしそうだった。
と、彼は言う。

そんな数カ月が過ぎ、ある日彼は社長に呼ばれてこう言われた。
「ウチの会社は、海から撤退することになった。
これからは陸地の仕事だけしか無くなるけれど、君は、どうするかね。」

彼は会社を辞めることにした。
とても、すっきりした気持ちだった、という。

今、彼は考えている。

ペンギンだけが住む町へ行くべきだろうか。
しかし、ペンギンだけの世界では、僕の泳ぎの速さや魚の知識は、
特別な事ではなく、当たり前の普通の事かもしれない。
その上、僕は、色々な動物が混ざって暮らすこの都会が好きだ。
ペンギンだけ、鳥だけではない、様々な友人と付き合うことが楽しい。

その為には、ペンギンの町でも、この都会でもどちらでも認められる
「僕らしい強さ」 
を身に付けなくてはならないのかもしれない。
ああ、どうすれば良いのだろう。
と、大きな身体で、ちいさな翼をひろげて、彼は悩んでいる。

まず、少し嫌いになりかけていた自分を、好きになることから始めたらどうだろう。

と、私は彼に言った。




















Commented at 2014-03-11 15:10 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2014-03-11 15:30
面白いなあ。ペンギンは悲しからずや。ペンギン的なオーラをまとっていたヤツがいましたよ。ここに出てくるような。
Commented by unburro at 2014-03-11 16:09
鍵コメmさま

ペンギン君は、私が心配するほどには落ち込んでいない様子です。
とりあえず、ペンギン国ペンギン大学大学院?へ行って、ペンギンとしてのスキルアップを目指す模様・・・。
Commented by unburro at 2014-03-11 16:20
saheizi さま
いますよね、そういうヤツ。 
最近ペンギンを使いこなせる大人が少なくなっているような気がします。 スズメにはスズメの、ペンギンにはペンギンの使い方、適した仕事があるのでは、という気がするのですが・・・
Commented by こんの at 2014-03-12 06:41 x
>自分を、好きになることから始めたらどうだろう

至言ですね。さすがと嬉しくなりました
Commented by unburro at 2014-03-12 09:51
こんのさん!

海は広い。
人生は捨てたもんじゃない。
と、若者には伝えたいですね。
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by unburro | 2014-03-11 12:27 | 竹彦 | Comments(6)