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木守柿





木守柿こころの如く赤々と  
         驢ノ450



駄句である。



初冬である。
樹上に高々と残る木守の柿。
夕日を照り返しながら、ちいさく震えている。

そういえば、
この柿の木の家は、もう随分と前から空き家である。
ということは、人の手によって残された木守り柿ではないのだ。
鴉や鵯、百舌や雀、様々な鳥たちに突つかれ、落とされ、食べられて、
雨や風にさらされて、今、最後に残った柿なのだ。

どういう因果なのか、三つほどの柿が、
赤々と、寒風の中に残っている。

私の心を、掴み出して高く掲げれば、
あのように赤いのではないか、とか思う。

大きさも、ちょうどあのくらい、のような気がする。




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以上は、先日、少し冬らしくなってきた頃に、書いた句と文章だ
推敲して、アップしようと思っていたら、
昨日からの、このイカレたような陽気である。

暖かいのは、嫌ではない。
散り残った紅葉など見上げながら、コートを脱いで歩くのは、
いい気分だ。

しかし、これは変だぞ、気を抜くな、と
小さな警報がどこかからか、聞こえるような気もする。

きっと、寒さがやってくる。
気を緩めていると、少しの寒さで風邪をひくぞ、という声だ。

そういえば、夏の終わりごろにも、こんな警報が聞こえていたのだ。


木守柿_b0290638_03150096.jpg


それは、地球規模の気候変動の話ではなく、
私の中の、心構えに対する警報であった。
具体的には、家族の在り様や、将来の展望に関して、
「安心してはいけないぞ」
「このまま、上手くいくわけはないぞ」という、点滅ランプの様なものだ。

残念ながら、この予報は当たり、
次男、竹彦は仕事に追い詰められて、退職する事態に至った。
当初は、竹彦本人のみならず、私も混乱したり、迷ったりしていたが、
最近、やっと落ち着きを取り戻しつつある。

ダッシュで飛び込んだ心療内科も、まずまずの当たり、であり、
弱い向精神薬と、短いカウンセリングだけで、
竹彦は、取りあえずの自信をとりもどしたようだ。

以前から付き合いのある大人たちも、
二回も、「ふりだしに戻る」の選択をした青年にたいして、
大変寛容な反応を見せてくれたらしい。

酒や食に関わる男たち、スペイン好きを中心にしたラテン系の男たち、
は、基本的に迷い道、回り道が大好きであり、
3年で2回の退職の経験をした若者を、自分たちの同類として
歓迎してくれているようだ。
えっ、それでいいのか、とこちらが心配になるほどである。

松介の友人は、ミカン農家の手伝いに、引っ張り出してくれた。
梅子の友達は家に来て、たくさん食べ、たくさん飲み、励ましてくれた。

そんな、秋が過ぎ、冬が来て、竹彦はアルバイトを始めた。
家から自転車で5分の、天津甘栗の工場である。
こんな所で、甘栗を焼いていたとは、と驚くような小さなビルである。
年末年始だけの、短期バイトで時給が高い。

新しい職を探すのではなく、短期バイトなのは何故だ、と問うと

年明け1月末からスペインに行く、という。
知り合いのレストラン数件から、スペイン行きの通訳兼ガイドを
頼まれたのだ、という。

食事代くらいは出してくれそうだが、飛行機やホテルなどの旅費は自腹だ。
それでも、声をかけて貰えたことが嬉しいし、将来を考えるチャンスだと
思うので、行ってくる。
ガイドの日程が終わった後も、しばらく現地に残って、色々考えてくる。

などと言うのだ。
その為の、資金稼ぎなのだ、と言う。

君の人生は、君のものだ。
煮るなど焼くなど、どうとでもするがいい。
生きていてくれれば、それでいい。



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などと、居直って、気を取り直していたら、
変化は、これで終わりではなかった。

刀自さまである。

先週から、どうも調子がおかしい。
おかしい、のであり、悪いのではない。
何やら、元気なのである。

ここ2カ月ほど、緩い坂道を、静かに下るように、
眠っている時間が長くなり、話がかみ合わない事が増えて、食も細くなり、
瞼が落ちやすく、口が半分開いて、表情が乏しくなって、いたのだが、
それが、急にハッキリ、スッキリ、テキパキ、シャンとしてしまった。

きっかけは、発熱であった。
風邪でもないのに、熱が上がって、寒気がするとか、目まいがする、
とかの症状が出て、慌てた。
お腹も頭も痛くない、ただ食欲がない。
解熱剤を飲むと、熱は下がるが、数時間たつとまた上がってくる。
たまたま日曜日なので、医者も休み。
意識ははっきりしているので、救急車を呼ぶほどでもない。

翌日、歩き方がおかしいので、問いただすと、
おしっこがすっきりしない、脚の付け根が少し痛い、と言う。
ああ、膀胱炎的なヤツか、と思ったが、本人は、外を歩ける状態ではないので、
紙コップにおしっこを採って、ラップをかけて、そうっと、主治医のクリニックに運んだ。
そして、大当たり。
「ひょっとしたら、腎盂炎かもしれないけれど、薬は一緒だから」
と、処方された薬をもらって帰り、2日間飲むと、すっかり熱も下がり回復した。

それから、なんだか、別人格が現れたように元気になったのだ。

昼寝もほとんどしない、ずっと喋っている。
食事中も、これは美味しい、これは好きではない、甘すぎる、塩辛い、
などと、コメント連発。
家族の出入りに、敏感になり、どこへ行くのか、何しに行くのか、
と、質問攻め。
口角は上がり、眼もパッチリ。

そう、瀬戸内寂聴さんが、我が家に降臨した様なのである。

そして、これはこれで、結構ストレスなのである。

萎れかけた水仙が、急に満開の向日葵になったような、
エンディングに向かっているつもりで読んでいた短編小説が、
実は、大長編の序章であったような、
そんな、変な疲労感に囚われてしまった。

この覚醒状態、または、躁状態は、3日間ほど続いた。

そして、一昨日。
朝、目覚めた刀自は、以前のぼんやり、に戻っていた。
厳密にいうと、半年ほど前の刀自であった。
少しぼんやり、でも、同世代のお婆ちゃんより遥かに元気。
という、刀自である。

これも、一種の「ふりだしに戻る」状態である。

まあ、めでたしめでたし、である。

 

木守柿_b0290638_03192479.jpg



そんなこんなの、数日が過ぎ。

450句、にたどり着いた。

恒例?の50句の振り返りは、後日の予定。

























Commented by こんの at 2015-12-13 09:41 x

木守柿こころの如く赤々と    驢ノ450

> 心を、掴み出して高く掲げれば、あのように赤いのではないか、と

「霜の朝」8日
「木守柿」13日
この5日間の、こころのありようがつぶさに読み取れ、切なく、そしていまホッとしている

Commented by pallet-sorairo at 2015-12-13 10:08
>基本的に迷い道、回り道が大好きであり、
山好きなおばさんも同じ。
ドキドキわくわくしながら
竹彦さんから目が離せませんです(^^ゞ
母親としてはちと心配かもしれませんが
竹彦さんは、大丈夫!

>木守柿こころの如く赤々と    驢ノ450
unburroさんも大丈夫ね。
めでたしめでたし。
Commented at 2015-12-13 10:24 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by saheizi-inokori at 2015-12-13 10:48
竹彦さんもお母さんもみんなみんなあかあかとした心に見守られている。
いいなあ。
Commented by unburro at 2015-12-13 11:25
> こんのさん!

ホッとしている。
まさに、そのとおり!

冬らしくない暖かい陽射しのなかで、
義母は、うとうと…しています。
ほっ、
日曜の昼前のひと時、穏やかです。

年末年始の慌ただしさに備えて、今日は一休みです(笑)
Commented by unburro at 2015-12-13 11:35
> pallet-sorairoさま

素敵な山歩きの様子、いつも楽しませていただいています。
ちょこちょこ立ち止まり、木々や花々を見て、おやつを食べて、
頂上にこだわらず、ルート変更も柔軟に、
そんなpalletさんの、山行きのスタイルは、人生においても理想ですね‼
その上に、実は結構ハードなコースのようなのもカッコいいです!(^^)!

どんな迷い道にも、出口があるのだと思います。
装備も大切、日頃のトレーニング、も大切ですが…
Commented by unburro at 2015-12-13 11:44
> 鍵コメmさま

まったく、色々あります(笑)

急にハッキリしたお年寄りが、数日後ポックリ…という
話を聞いたりしたので、実は、不安に襲われていたのです。
これで、無事、100歳の誕生日(1月1日)を迎えられそうです‼

竹彦は、やはり、じっとしていられない性格の様です(笑)
ダメ元、で飛んでいけばいいと思います(^^;
心配しても、仕方ない…
mちゃんの御一家も、穏やかな年越しが出来ますように!
Commented by unburro at 2015-12-13 11:45
> saheizi-inokori様

あかあかと温かい、こころとは、そういうものである、と
信じたい、信じている、そんな気持ちです。
Commented by mother-of-pearl at 2015-12-14 11:41
寒空に赤々と存在を示すunburroさんの心が目に浮かびます。

冷たい空気が故に神々しささえ感じますね。

それを想うと我が心は干し柿からドライプラム更に干し葡萄だなあ、と苦笑。
自然のままでも梢に実が残されている、というのは感動的ですね!

おかあさまのご様子。まるで映画“Awakenings”(邦題は“レナードの朝”)のようです。
unburroさんの細やかな気配りが素晴らしい。

お正月にはお祝いが重なりますね!!
Commented by unburro at 2015-12-14 15:29
神々しいなんて、とんでもないです。
危うくて、頼りなさそうで、細い枝にしがみついている。
でも、なんとか、赤く…とやせ我慢…そんなところです^^;

そして、義母の事。
私も、「レナードの朝」のようだ!
と思っていました。
オリバー・サックスの原作も読みましたが、映画もよかったですね。

しかし、原題が“Awakenings”だったんですね。
確かに、「覚醒」という感じでした。
それも、私が知っている姿、つまり世話をされる老人ではなく、多分、私の知らない人格、若く元気な働き盛りで仕切り上手な女だった頃が蘇った様子だったので、とにかく驚きました。
動きも活発で、普段は昇らない階段を上ったりして…
まったく、びっくりぽん!の連続でした。

このまま、頭と身体がアンバランスなままになったら、
どうしよう⁉︎と、私の方がパニックになりそうでした(泣)
でも、元に戻ってひと安心です。
「昨日まで、すごく元気だったけど、憶えてる?」
とは、家族の誰もが(怖くて)聞けませんでした(笑)

レナードは、覚醒していた間のことを、
覚えていたのかな?どうだったでしょうか…
Commented at 2015-12-16 22:59
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by unburro at 2015-12-17 10:19
鍵コメhさま

竹彦は、これから暫くは、こんな旅の様な人生を送るのかもしれません。
私の一族には、それぞれの代に一人は、こんな人間があらわれる様です。
面白がって見守るしかないかな、と思っています。

義母は、益々元気です。
あまりにも、静かに寝ている時など、
えっ、と、息を確かめにいくことがあります。
ああ、大丈夫。
と思う気持ちに、ちょっぴり、黒い気持ちが混じることもありますが…
ま、いいか…
と、深く考えない様にしています(笑)
Commented at 2015-12-17 10:57
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by unburro at 2015-12-17 16:56
>鍵コメ(12-17 10:57)さま

ふふふっ…
共感⁈いただいて、よかった、ほっとしています。
白驢人と黒驢人、どちらもホントの私です。
でも、そのまんま、の言葉でいってしまうと、
言葉の力に負けて、白が黒に支配されてしまいそうで怖いのです。
それは、私の白い部分が弱いのだなぁ、と思う事があります。

「くたばりぞこないのババアたち!よく来たな!」

とか言っても、明るくて、愛されるキャラの人は、本当に凄いなあ〜
とか、感心してしまうのです(笑)
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by unburro | 2015-12-13 09:14 | 竹彦 | Comments(14)