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百歳の杖を追い越す夏の蟻             驢ノ375



駄句である。   




実は、杖をつく人だけでなく、
蟻は、普通に歩く人より、常に早いかもしれない。

杖をついて歩く刀自の、お供をしてお寺参りなどしていると、
ついつい、足元を見ながら歩くことになる。
そこで、
ああ、人だけでなく、虫にも追い越されてしまった。
と、思うのは、私の気持ちの焦りであるのかもしれない。



杖_b0290638_01542975.jpg
(奥秩父、三峰神社の狛犬、ならぬ、山犬、すなわちオオカミ。
あれから、はや2か月、早すぎる…)




刀自は、99歳だが、数え年なら、100歳だ。
先日も、役所から

今年度中に100歳になる方には、今年の敬老の日に御祝いを送るので、
一度、お宅を訪問したい。
と、電話があった。

刀自は、1月が誕生日なので、該当するわけだ。

安否確認、のようなものですか。
と、聞くと、
いやいや、ちょっとご長寿の秘訣など伺いたく。
などと、軽い返答であった。

実は亡くなっているのに、年金を受け取るために死亡届を出さない、
という様な事件もあったので、そんな心配もあるのかもしれない、と
穿った事を考えたのだが、本当のところは、どうなのだろう。

ともあれ、「いつでもどうぞ。」と言うと、
「今から行ってもいいですか。」と応える。
暇なのか、忙しいのか、分からない部署の人だ。

30分ほどして、現れた「福祉事務所 支援保護課 高齢担当」
という肩書の、定年後の再就職といった年頃の男は、
刀自の矍鑠とした様子に、感嘆しきりであった。

生まれはどこか、とか、ご主人の仕事は、とか、昔のことを尋ねたり、
子供は何人、孫、ひ孫は、とか今の事を聞いたり、
話が飛ぶので、唯でさえ記憶が混乱気味の刀自には、少し気の毒な面談であった。

子供は、いますよ、何人かな、あれ、何人やったかなあ。

という事になってしまった。

話の流れが、妥当なものであったら、正解が出たかもしれないが、
突然、知らない人が来て、
1910年代!の子供の頃の話や、21世紀のデイサービスの話を
どんどん質問するのでは、そりゃ、困るだろう、と同情する。

「ドクトル・ジバコ」のDVDを再生しながら、
好きなシーンを一発で出せ、と
言われるようなものだ。

帰り際、玄関まで見送った私に、高齢担当の彼は、

さすがに、記憶のほうは、あやふやですねえ。

と、安心したように、薄ら笑いを浮かべたのが、滑稽であった。

人は、想定外のものを、見聞きすると、自分の解かりやすい様に、
事実を曲げようとする。
彼も、100歳の人が、自分の身の回りの事が出来たり、
持病もなく、近所に散歩に出かけたりすることが、受け入れ難かったのだろう。
認知症の気配に、安心したのだ。

でもね、少々物忘れがあったとしても、
日常生活に、何の支障もないんですよ。
今、が元気なら、何の問題もない。
ねえ、そうじゃないですか。

と、私も笑って、彼を送り出した。


半世紀以上前のことなど、
忘れるほうが、健全なのかもしれない。

事実を、捻じ曲げたり、解釈を捏ね繰り回すより、
忘れるほうが、まったく、自然なこと、のような、気がする。







杖_b0290638_01592938.jpg
(これも、奥秩父の宿の土産物コーナー。ハイッと手を上げている招き猫。)












Commented by こんの at 2015-06-02 08:37 x
>忘れるほうが、まったく、自然なこと、のような、気がする。

はい、同感! ですねぇ
Commented by saheizi-inokori at 2015-06-02 10:06
記憶を入れ替える、記憶を消去する、記憶力を高める、、今読んでいる「科学」の本は脳=心をコントロールする研究が進んでいると書いてありました。
忘れたいけれど忘れられない、覚えていたいけれど(子供の顔ですら)忘れる、それが人間なのにね。
止めようと思いつつも半分読みました。
Commented by unburro at 2015-06-02 12:40
こんのさん!

そうですよね!
しかし、
何を忘れるか、という所には個人差、個性があり、
中々、面白いものですね。
ウチの義母は、嫌だった事、助けられた事、とかを
忘れる傾向があるようで、
楽しかった事、自分が頑張った記憶などがよく残っている様です。
良い「忘れ方」だなぁ〜、と日々感心しています(笑)

ご近所のお婆さんは、中年の頃から、
恨み辛みなど、負の記憶ばかりが残る傾向のようで、
日頃から、過去を呪い、人を疑い、過ごしておられたのですが、
あっという間に、認知症が進み、施設に入ってしまわれました。
中々、難しいものです。
Commented by unburro at 2015-06-02 12:48
saheizi様

先日、テレビのドキュメンタリーで、
身体の老化は仕方ないが、脳の寿命はもっと長い、
だから、記憶などの脳の機能を、人工知能みたいなものに移し替えて、
その上で、身体をサイボーグみたいにしたら、不死の人間が出来る?
みたいな研究をしている学者グループをみました。

なんだかなぁ、という気分。
お金持ちの考えることだなぁ、とつくづく思いました。
Commented by sheri-sheri at 2015-06-04 10:34
義母さまは、健やかに年を召されたようで、そしてまた今もお元気で何よりです。わからない人にわかってもらえなくたっていいですよ。 ほんと、この世は開いた口が塞がらないことが多い・・というのをつくづく気付かされますが、お義母さまや、私の周りの目上の方の生き方に勇気をもらったりと・・いいこともあるので感謝です。
Commented by unburro at 2015-06-05 00:26
sheri-sheri様

立派なお年寄りは、国の宝ですね。
今こそ、その声を聞かなくてはいけませんね。w
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by unburro | 2015-06-02 02:17 | Comments(6)