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犬筥



犬筥に入れて忘れし金平糖             
驢ノ325


駄句である。 









犬の人形は、安産のお守りでもあり、女の子の魔除けにもなることから、
張り子の犬は嫁入り道具や、雛飾りに用いられることが多い。
御伽犬(おとぎいぬ)とも呼ばれる。

そういえば、八犬伝も、お姫様と犬の物語だな。
とか、思い出した。

というわけで、我が家の姫である梅子と、お雛様にも
この犬たちが護り犬として仕えているのである。

娘の初節句の時に用意した雛飾りには、犬筥はなかった。
このわんこ達は、数年前に、我が家にやってきたのだ。
ずっと、犬筥がほしい、と探していたが、
大きさやお顔が、良いと思えるものがなくて、
少し諦めかけていたところに、出会った犬筥である。

偶然というより、必然であったのだと、今は思う。

この犬筥を作ったのは、我が家のお雛様を作った方のお嬢さんである。
内裏雛の背後の、鏡板のような板絵を描いたのが彼女なのだ。
当時はまだ、父上の元で修行中だった彼女の、デビュー作がこの板絵なのだ。
「まあ、合作ちゅうことですなあ。」と
嬉しそうに、すこし照れくさい様子で話されていた父上を、記憶している。

それから数年後に、彼女は独立し、
有職故実をふまえた格調高い作品で、見る間に人気作家になっていった。
その彼女の個展で、この犬筥に出会った。
ひと目で気に入って、我が家へお運び願うことを約束したのだが、
その時に、作家もギャラリーの店主も、同じことを話してくれた。

この犬筥は、彼女の自信作であり、
その上、「もうこんな手間のかかる仕事は、当分出来ひん、もういややわ」
という程の、希少な作品であるので、
見たお客さんも皆が皆、「いいですね。」と言って下さる。
欲しいという方も、幾人かいらっしゃったのに、
何となく、販売に至らず、ここまで来てしまって、
スタッフ一同、「おかしいねえ、なんで売れへんのやろう」と
首をひねっていたところだったのです。と、そして

「やっぱり、自分たちの納まる場所を知ってはって、
この犬筥さんたちは、こっそり待ったはったんやねえ。」
などと、話すのだ。

なるほど、そういう事はあるかもしれない、と思わせるような、
この犬筥の表情である。









犬筥_b0290638_15492600.jpg




我が家の雛飾りは、2月末から、三月三日を越えて、
4月の旧暦の雛祭りまで、飾っておくのが、最近の習いになっている。
少しでも長く眺めていたい、という勝手な気持ちでこうなってしまった。

野遊び、摘み草など、春の行事が暦と合わないままに
すたれてしまうことが多いけれど、
雛祭りは、旧暦で祝う地方がたくさんあるようだ。
それに便乗しているのである。

四月三日は、ゆっくり時間をかけて、娘と一緒に雛の膳を作ってみようか。
菜の花や新若布、小魚や小さな手鞠麩、小さいものを取り合わせ、
小さな器に少しずつ盛り合わせるのだ。
そして何より大事なちらし寿司。

干瓢や干し椎茸を前日から戻して、下拵えして、味を含ませる。
私が母から教わった、ちらし寿司の味を、娘に伝えなければ、
貧しい時代に、無理をして御殿雛を揃えてくれた祖母にも母にも、
申し訳ないことである。


























Commented by saheizi-inokori at 2015-03-10 09:10
いいですねえ、女たちの家族、我が家は娘は男の子、息子は女の子、亡妻がいてくれれば少しは違うのでしょうが、どうしても、潤いにかけますなあ。
Commented by こんの at 2015-03-10 09:17 x
>「やっぱり、自分たちの納まる場所を知ってはって、
 この犬筥さんたちは、こっそり待ったはったんやねえ。」

京ことばがこころを和ませますねぇ
就中、「この犬筥さんたち」と呼ぶ言い方が、とても嬉しいです
Commented by unburro at 2015-03-10 10:40
saheizi様

いやいや、面倒なことも多いのです。
しかし、正月や節句、着物や料理、伝統的なものをつないでゆくのは、女の仕事かもしれないな、と思います。
Commented by unburro at 2015-03-10 10:45
こんのさん!

こうして、文字にして文章にすると、なんというか、
もったりしているなあ、とつくづく思います。
喋ったり、聞いたりしているときは、それほど気にならないのですが…
Commented by pallet-sorairo at 2015-03-10 16:31
素晴らしいです。
張り子と言われても信じられないくらい
どっしりとして存在感のある犬筥(というのですね)。
実物をぜひぜひ拝見したく思います。
旧暦の雛祭りの日のごちそうも今から楽しみです(^^。
Commented by hanamomo06 at 2015-03-10 20:56
こんばんは。
こうして見せていただきうれしいです。
本当にすばらしいものですね。
張子とは思えない重厚さがあります。
それでいて絵が細やかでいい色使いです。
そらいろさんのように実物を見せていただきたい。
私もunburro家の旧節句の雛膳が楽しみです。
梅子さんと楽しんでどうぞ。
Commented by unburro at 2015-03-11 00:41
pallet-sorairo様

この張り子は、本当に軽くて、
軽すぎて取り落としそうになるくらいです。
手触りも柔らかく、あたたかいのです。
丁寧に塗り重ねられた胡粉が、滑らかな質感を作っているので、
写真にすると陶器の様に見えるのですね。
私も、今回初めて気付きました。

旧暦の雛祭り!
よく考えたら、梅子は4月1日から社会人なのでした。
うっかり忘れていた気楽な母親です(笑)
私一人で、雛ちらしを作ることになりそうです。
Commented by unburro at 2015-03-11 00:59
hanamomo様

張り子の犬筥、褒めていただいて、うれしいです。
二つ合わせて、掌に収まる小さなワンコです。
伝統の技法を、昔ながらの材料で伝えるために、
少し現代的なセンスを入れていく、そんな匙加減が難しいのですが、
そこをとても上手く作品に生かしている、
素敵な犬筥だと思います。

palletさんに、お返事したように↑、四月の雛膳は、私一人で作ることになりそうです。
「すし太郎」にはならないように、頑張ります(笑)
Commented by mother-of-pearl at 2015-03-11 11:56
(出遅れたコメントで失礼致します。)

恥ずかしながら、“犬筥”の存在さえ知らず漢字も読めませんでした!(滝汗)

金平糖は、さすがにもう“賞味期限切れ”だったのかしら、
と妙なことが気になるレベルですので、
大変勉強になりましたm(__)m

>内裏雛の背後の、鏡板のような板絵を描いたのが彼女なのだ。

シリーズ第一弾のお雛さまの後ろの絵の優雅さが気になっていました。
全てが素晴らしい芸術作品なのですね!

しばらくは美術展に行く必要がない程、堪能させて頂きました!!
Commented by unburro at 2015-03-11 18:32
mother-of-pearl様

たくさん褒めていただき、ありがとうございます。
何だか自慢するみたいで、カッコ悪いかな、とも思ったのですが、
祭の時などに、それぞれの家の自慢のお道具を表座敷に並べて、
お披露目する行事がある様に、こんなブログの場で見て頂くのも
人形達の励みになるかな、と思って写真をアップしたのです。

私自身も、色々、書きながら思い出すことも多くて、
良い機会になりました。
Commented by sheri-sheri at 2015-03-11 21:00
今晩は。なんて品の良い、趣にあふれたお雛様でしょう。優雅な気持ちになりました。見せて下さって感謝です。
Commented by unburro at 2015-03-12 01:06
sheri-sheri様

我が家の小さなお雛様たちも、遠く霧島から!
褒めていただき喜んでいることと思います。
ありがとうございました。
Commented at 2015-06-14 03:23 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 川口薫 at 2015-06-14 03:24 x
素敵な犬筥ですね。ぜひ、作者名、店名など教えていただきたいです。
Commented by unburro at 2015-06-15 00:16
> 川口薫 様

ようこそ、おいでくださいました。
我が家の家宝、娘の守り神である、この犬筥をほめていただき、
ありがとうございます。

しかしながら、なんと申しましょうか。
娘の「梅子」などという名前が、つくりもの(仮名)である如く、
この雛人形と犬筥の由来も、全てが真実とは云えないこのブログです。
モデルが居るフィクションのようなものと、ご理解いただき、
この犬筥の作り手の名前も、伏せさせていただいてよろしいでしょうか。
不思議な縁で、私の元に巡って来た美しいものたちの物語を
不思議なままで置いておきたい、私の我儘です。

自慢げに写真を載せてしまったのは、私の未熟、不徳の致すところです。
何卒、ご容赦、ご理解いただけませんでしょうか。
どうぞ、お許しいただけますよう、お願い申し上げます。
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by unburro | 2015-03-10 00:19 | Comments(15)